イ・ミョンソプさん。製薬会社から世界1位の化粧品のOEC&ODE企業を経て、現職に。カラーコスメの有名ブランド「ロム・アンド」で世界をリードする。国内外の化粧品の企画・開発・製造・販売は無論のこと、原材料からトレンドまで精通したコスメ作りで名高い。
2011年発売の韓国コスメ最初の世界的大ヒット「BBクリーム」、20年発売の「CICA(シカ)クリーム」。化粧品製品の販売登録企業は16万社超。終わりなきヒットコスメ作りはどのようにして、いかなる仕組みのなかで生みだされるのか。人気カラーコスメのブランド「ロコアンド」のメーカー、ミックス&マッチ社代表理事のイ・ミョンソプさんが、その秘密を語ってくれました。
韓国の世界的大ヒットコスメに、
これで終わりはありません。
いまはビーガンにメンズ。トレンドは、
「クリーン・ビューティー」と
「超個人化」の具体化です。
韓国の世界的大ヒットコスメに、
これで終わりはありません。
いまはビーガンにメンズ。
トレンドは、
「クリーン・ビューティー」と
「超個人化」の具体化です。
韓国ナンバー1のカラーコスメ・メーカー
「MIX&MATCH」イ・ミョンソプ 代表理事
韓国のトップ製薬会社「大熊製薬」の営業戦略チーム長を経て、世界1位の化粧品生産を誇るOEM・ODM専門企業「Cosmax(コスマックス)」に入社。マーケティング部長として活躍したのち、現在はコスマックスのグループ会社「MIX&MATCH(ミックス&マッチ)」代表理事。カラーコスメの有名ブランド「ロム・アンド」で世界をリードする。国内外の化粧品の企画・開発・製造・販売は無論のこと、原材料からトレンドまで精通したコスメ作りで名高い。
イ・ミョンソプさん。製薬会社から世界1位の化粧品のOEC&ODE企業を経て、現職に。カラーコスメの有名ブランド「ロム・アンド」で世界をリードする。国内外の化粧品の企画・開発・製造・販売は無論のこと、原材料からトレンドまで精通したコスメ作りで名高い。
韓国製造の化粧品は「K-beauty(ケイ-ビューティー)」と呼ばれ、いまや全世界が知る言葉となってトレンドになりました。なぜ、K-ビューティーがここまで人気になったのか、実は私たちも日々考えてきました。 まず、3つの大きな理由です。 1つ目は「韓流」の効果です。韓流は、日本では2000年度初めに連続テレビドラマ「冬のソナタ」が大人気になりました。その後も、BTS(防弾少年団)やBLACK PINK(ブルピン)などのK-pop(ケィ・ポップ)グループを始めアイドルたち、また「愛の不時着」、「梨久院クラス」など新しい韓流ドラマの人気が続きました。やがて、Netflix(ネットフリックス)、YouTube(ユーチューブ)、Instagram(インスタグラム)のプラットフォームを通して簡単に誰でも視聴することが可能になり、韓国文化は世界の文化の仲間入りを認められました。
20年ぐらい前、やはり2000年度初頭。中国では韓国製の商品が人気で「made in Korea(メイド・イン・コリア)」と付いたものならなんでも売れた時代がありました。おかげで韓国のコスメ業界は、トップブランドから小さなメーカーまで成功することができました。
たとえば、「馬油(馬クリーム)」。馬のたてがみや尾の基部、あるいは皮下脂肪層から得られる脂肪油です。この馬油1つで韓国の小さな会社が突然3000億ウォン(2023年度で約343億円)を売り上げました。ゲリソンというブランドが新しい自社商品として中国国内で販売、韓国でホームショッピングを展開した資料がありましたから、そのマーケティング資料だけで、いきなり中国で3000億ウォン!です。まさしく飛ぶように売れたのです。
日本の人も旅行で韓国や中国に行くと、治療の目的で「タイガーバーム」のようなクリームを買うブームがありましたね。そんな感じで中国の人は馬クリームを買ってくれたわけですが、最近は中国の消費水準が上がって、このような市場はなくなりました。
日本の場合は、購買力に消費者の賢さが加わり、「プチプラ(安くていいもの、の意味)」が人気になり、安くていいものの意味の仏語のpetit・プチと、英語のprice・プライスが組み合わされたプチプラと韓国コスメがピッタリ合いました。韓国内ではそこまで価格が安いとは思っていませんし、適切な価格だと考えているのですが、日本ではとても安く思えたようです。
韓流と化粧品との関係についての話します。
2000年代初めに「冬のソナタ」でペ・ヨンジュンが人気になりました。そして、そのあとに「BBクリーム」が流行りました。きっかけは、韓国人女優ユンソナが日本のテレビ番組で自分のバッグの中身を紹介する企画があり、彼女のバッグの中に「ハンスキン」のBBクリームが入っていたからでした。ユンソナは日本でも人気がありましたから、BBクリームにも注目が集まり、日本ではこの後1か月で60万個が売れたそうです。
このように、いままでになかった革新的な韓国コスメのアイテムが“韓流熱”によって次々に日本や世界に紹介されてトレンドになっていきました。
実は、BBクリームという言葉は、英語でいうとちょっと変なんです(笑)。BBは、Blemish Balm(傷を隠す軟膏)という意味で、軟膏という言葉の次にクリームという言葉がつくのですから、おかしいですよね。もともとドイツで医療目的として使われていた製品を韓国がメークアップ化粧品として製造、販売したものですが、このころから消費者は時間をかけずに早くメークを終えたくて、BBクリームならこれひとつでメークもできるしスキンケアの機能まである、そんな新しい製品として受け入れたのです。ユンソナが紹介したときには、まさに時代にふさわしい“時短”コスメ”ともいえ、反響にすごいものがありました。
※ハンスキン 2001年、コスメに使用する天然素材のネットショップとして誕生。緑茶や高麗人参、ドクダミなど多くの天然素材の販売で培った美肌へのこだわりと高い技術力で、2002年スキンケアラインを発表、現在のコスメブランド・ハンスキンの始まりとなる。天然素材をきわめたブランドならではの商品設計で、肌にやさしいアイテムを揃える。BBクリームで一世を風靡。
「BBクリーム」というネーミングは確かにコスメには奇妙なネーミングでしたが、それはともかく、人気コスメになったことで世界的に有名な大企業「ロレアル(フランスの世界最大の化粧品会社)」や「エスティーローダー(アメリカ合衆国)」などもBBクリームを作り始めました。時代は、韓国コスメの番組ばかりを1日中放映するテレビチャンネルまでをも誕生させました。
このようにして2006年、BBクリームは爆発的人気コスメになったのですが、実は以前から韓国にはBBクリームが存在していました。「A.H.C.(エー・エイチ・シー)」というアンチエージング・ブランドとして、「カバーKorea」からエステ・スパ・皮フ科専用品として販売していた化粧品がそれでした。けれども、当時はそこまでの人気はありませんでした。その後、「ハンスキン」が、オンラインを駆使して無料で2g入りの試供品を2万個配るマーケティングをしたところ人気を呼び、さらにその製品をユンソナが日本で紹介して、「ハンスキンのBBクリーム」がものすごいブームになったわけです。
※HPより掲載
その後も、韓国コスメとして世界をリードする製品、つまりそれまで世の中になかった化粧品が各社から生まれていきました。
その一つが、2010年ごろに発売された「クッションファンデ」です。これは、スポンジでできたクッションにリキッドファンデーションをしみこませた形状のメーク品で、化粧下地を使わずにそのまま肌に塗ることができる、まさしく“時短”化粧品の登場でした。
クッションファンデは韓国の化粧メ―カー「アモーレパシフィック」が最初に作ったのですが、これほど売れるとは思っていませんでした。けれども、ファンデーションを浸したスポンジと、「SIXPLUS(シックスプラスというドロップ型のパフ)」との相性がとても良く、とくに日本ではアモーレパシフィックの「アイオペ(IOPE)ブランド」のクッションファンデがすごく人気になりました。
私の前の職場である「コスマックス」も同じころクッションファンデを開発して、「ロレアル」を始め、「ランコム(フランスの有名化粧品メーカー)」や「シュウウエムラ(日本の特別な化粧品メーカー)」など、世界の有名ブランドのOEM(製造のみの委託・受託関係)企業として、「ロレアル」には1年間を通じて2000~3000万個を輸出したそうです。
「クッションファンデ」を作ることは、技術的には多くの国で可能です。
けれども、スポンジの特許を韓国が持っているために、どの国も韓国のメーカーにOEDで製造を依頼せざるをえないのが現実です。結果として、全世界のクッションファンデを韓国が作っている、ということになりました。
※アモーレパシフィック(amore pacific) ニキビ・肌アレのための製品やルースパウダーでおなじみの、歴史ある韓国の化粧品メーカー。
クッションファンデに続いて、その後「シカ(CICA)クリーム」がブームになります。シカとはセリ科の植物・ツボクサから抽出されるエキスです。
全世界がコロナ禍の数年を過ごさなければならないなかで、韓国ではマスクによる肌アレやダメージを受けた肌のトラブルに、あるいはコラーゲンへのアプローチに、このシカの成分が役立つのではないかとの考えが出てきました。マスクの装着は肌を敏感にするだけではなく、毛穴を広げてニキビができる・悪化するなど、肌トラブルを起こします。
シカのエキスは、韓国では昔から傷の治療に使用されてきた伝統的なハーブです。その成分を、肌アレ、ニキビ・ニキビ痕などに効果的に使用して身近な化粧品として開発できないか? こうした素材重視の考えが受け入れられてシカの化粧品は人気になりました。もともと東国製薬から出ている軟膏にシカの原料が配合されていましたので、その軟膏も韓国ではヒットしました。日本の場合も同じ傾向にあって、プロポリスとか、やはり、肌にいい成分を使ったマーケティングをしていましたね。
化粧品は単に肌の健康を維持するだけでなく、肌のトラブルを改善できるものであってほしい。人々のその期待に応えて、治療とまではいかなくても、その時々の願いやトレンドをキャッチすることにK-ビューティーは長けており、しかもいち早く製品化ができる。それが韓国美容界の強みだと思っています。